不勉強職員へのサプリメント。(濱口桂一郎『新しい労働社会』)

 前に書評を載せると書きましたが、そんな大層なものではなく、ただの感想文だと思っていただければ幸いです。
 
 雇用対策のための国の施策「緊急雇用創出事業」は、とにかく失業者を雇ってくれ、金は全額国で持つという、とても太っ腹な事業です。

 これが昨年度末に、県を通してウチの市役所にも降りてきて、労働行政担当の課から全庁的に「人を雇って何か事業をやってくれ」という呼びかけがあり、素早い課では今年度当初予算で対応、急に言われても準備ができないという課は補正予算で対応しました。
 私の課でも、現在、この事業を利用して臨時職員を採用してます。

 そんな中で思ったのが、日本の雇用の根本的な問題はどこにあるのかということ。
 確かに、今は景気悪化に伴う雇用不安が課題ですが、そもそも派遣というシステムが抱えていた問題や、正規と非正規の間にあった問題は何だったのか? そんなことが気になりだしました。

 日頃は世間の情勢に疎いのに、自分に関わりが出てくると急に理解不足を埋めたがる、いかにも不勉強職員の私らしい考えです。

 そこで、書店へ行き、何冊か選んで読みましたが、その中で私の知りたかったことに一番応えてくれたのがこの『新しい労働社会』でした。

 序章で述べられている、日本の雇用契約の「職務が空白の契約」という特徴からの論理的帰結として、日本の雇用システムの3種の神器(終身雇用制度、年功序列制度、企業別組合)が導き出されるという解説に、まず納得。
 こうした考えは著者独自のものではなく、以前から労働研究者に共有されていたらしいのですが、その方面に疎い私には、まさに目から鱗でした。

 また、賃金の生活給制度については、市役所の初任者研修で習った地方公務員法に『職員の給与は、生計費並びに国及び他の地方公共団体の職員並びに民間事業の従事者の給与その他の事情を考慮して定められなければならない』(同法24条)とあったのを思い出しました。
 この中の『生計費並びに』という部分が、他の文面に比べ浮いているように感じていたのですが、あの時の謎がこの本を読んで融けた思いです。

 さらに、ホワイトカラーエグゼンプションやワークフェアなど、これまで一面的な知識しか持っていなかったことが、この本によってより深く理解できました。

 しかし、私にとってこの本の一番の効果は、今まで在籍していた幾つかの課で頭を悩ませた事柄同士の繋がりが見えてきたことです。

 例えば、「男女雇用機会均等法」、「管理職と管理監督者」、「社会保障とモラルハザード」などは、それぞれの事柄に関係のある課に在籍していた時には、その事柄だけの理解しかしていませんでした。 いわば「点」としての理解です。

 それが、この本で示されている幾つかのキーワードを通して「点」同士を繋いでいる「線」が見えてきました。
 日頃は、その時に担当している業務にしか目が向いていないので(一種の縦割り感覚)、今回のように自分が担当してきた業務を違った視点から見つめ直すことの必要性を改めて感じました。

 なお、現場近くにいる者として言えば、全国の市町村の福祉窓口で働いている職員のほとんどは、ワークフェアの考えを支持するだろうと思います。
 それだけ、グレーゾーンにいる受給者を見ているからです。
 もちろん、チェックは心掛けていますが、限界はあります。
 もし、ワークフェアの考え方を導入すれば、自治体側からの「取り締まり」ではなく、受給者側の自主的な意識でグレーゾーンを減らしていくことができるのではないかと思います。

 ただ、この本の一番の難所は、やはり第4章でしょう。
 著者がポピュリズムに走る恐れがあると指摘している「学識者のみによる哲人政治」は、御用学者による政府応援団体になる可能性が高い点で私も反対ですが、それでは「政労使の三者構成原則」のメンバーとして、著者が労働組合に望んでいる正規・非正規を含めた労働者代表組織という役割を、当の労働組合が果たせるのかどうか。
 
 確かに、最近の連合幹部からは、非正規の取り込みを目指す旨の発言が聞こえてきますが、それはどちらかといえば、組織率の低下という足元の危機感から出てきたもので、著者が考える労働者代表組織への転換とは随分意識に差があるように思います。
 こう考えてしまうのは、いつも見ているのがウチの市役所の職員組合だからかもしれませんが…。
 
 とにかく、全体を通して、日頃不勉強な市役所職員である私には、良い刺激になる本でした。
 近視眼的思考の進行を弱めるためにも、たまにはこういう「サプリメント」を摂取したほうがいいようです。 

 なお、この本の末尾で著者のHPとブログのアドレスが紹介されていますが、そのHPには著者がこれまで行った講演の内容や雑誌等で発表した論文がUPされています。
 それを補完的に読むことで、この本への理解がさらに深まります。

 また、ブログの方はかなり熱心に更新されており、こちらにも目を通すことで、著者の根幹にある考え方がわかってきます。
 ただ、この濱口先生、冷静でありながら血の気の多い方のようで、それもブログの楽しみ方のひとつかもしれません。


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池田信夫先生と濱口桂一郎先生(まとめ:「障害者就労支援事業」と「障害者の労働者性」)

労働法政策を専門とする労働政策研究・研修機構労使関係・労使コミュニケーション部門統括研究員の濱口桂一郎先生が、三重県伊賀市の社会福祉法人「維雅幸育会」が株式会社「ミルボン」の工場内で行っている障害者就労支援事業(就労系事業における企業内就労)に関して次の

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